デビュー以来、玲里を見守っている。彼女の懐深い音楽性に惚れている。
デビュー・アルバムからいつも感じるのは彼女の伸びしろの大きさだ。彼女の前では 音楽的可能性という言葉が陳腐に思えるほど、ミュージシャンとしての可能性の速度が速い。

 

そういったことを分かっていても、3 作目となる新作『OPEN WORLD』には驚かされた。 前 2 作は盟友である日本でも 3 本の指に入る名キーボーディスト難波弘之がプロデュースし、 その制作能力の高さが彼女の可能性をより伸ばしていた。ところがこの新作は、初のセルフ・ プロデュース。そしてこれまで同様、全作詞・作曲&編曲も玲里がすべて手掛けているのだ。 難波弘之を筆頭に土屋昌巳、織田哲郎、佐橋佳幸、屋敷豪太、そうる透など総勢がゆうに 20人を越える日本を代表する各パートのミュージシャンが参加している。これだけの人たちを コントロールし、楽曲毎に適切に配置し、その能力を惜しみなく発揮させるプロデュース能力の 高さは絶賛に値する。

 

それら参加ミュージシャンが 玲里のプロデュース&アレンジで作り上げたのは、現在の J-POP シーンではなかなか見当たらない “ マジカル・ポップ・ワールド “ だ。
全15曲、どの曲を聴いても同じ傾向=絵柄の曲はなく、ポップでアーティスティックな 万華鏡をのぞいている気分で楽しめる。シンガーソングライター・サウンド、ポップス、 ロック、プログレッシヴ・ロック、エスニック・テイスト・・・。
きらめく万華鏡ポップ・ワールド。

 

恐らく玲里の頭の中には、あらゆる音楽がいつも鳴っているのだと思う。
そういうミュージシャンは確かに存在する。しかし、それを形にするのは、例えば有名な ビーチ・ボーイズの『ペット・サウンズ』におけるブライアン・ウィルソンの苦悩でも知られている。 まだ若い玲里が、そういった頭の中でコントロール不能に鳴っている音楽をこうやって 形にしたのは本当に凄いことだ。

 

1 曲目から 15 曲目まで通してもまったく飽きがこないし、時間泥棒にあったように時を 奪われて聴いてしまう。デビュー時からその能力の高さは知られているが、ぼくの予想以上の 高さへ玲里は舞い上がってくれた。多くの方に “ マジカル・ポップ・ワールド ” を 知っていただきたいと願っている。